読書メモ『核融合発電で世界はこう変わる 高嶋哲夫』

プラントネタ

はじめに

今回は、いつもと少し趣向を変えてエネルギー分野の本を読んだ。テーマは核融合である。
普段のブログではあまり専門的な話題は扱わないが、本書を通じて「後から自分が振り返りたい」と感じる論点がいくつもあったため、読書メモを兼ねて整理しておきたいと考えた。

一冊を通して見ると、比喩表現がやや多く、内容の重複も目立つ構成ではあったが、核融合を俯瞰するという点では学びが多かった。

読書メモ本文

核分裂と核融合の違いを整理する

まず押さえておきたいのは、核分裂と核融合の違いである。

核分裂は、ウランなどの重い原子核が分裂する際に放出されるエネルギーを利用する仕組みであり、その過程で高レベル放射性廃棄物が発生する。
一方、核融合は水素のような軽い原子同士が融合し、より重い原子になる際に放出されるエネルギーを利用する技術である。

核融合燃料として重要なのがトリチウムである。
トリチウムは放射性物質ではあるものの、外部被ばく・内部被ばくのリスクが比較的低い点が特徴とされる。

読書外メモとして補足すると、トリチウムの半減期は約12.3年である。
物理的には短寿命の放射性物質だが、安全管理の観点では、放射能が十分に低下するまでに数十年を要する。
一般に5~8半減期、すなわち50~100年程度で実質的に管理対象外とみなせるレベルになると理解されている。

これは、使用済み核燃料中に含まれるTRU(超ウラン元素)の代表例であるプルトニウム239の半減期約2.4万年、アメリシウム241の半減期約430年などと比べても桁違いに短い。

「核融合は放射性物質を扱うが、時間スケールが原子力発電と根本的に異なる」
この点は、核融合を理解する上で誰もが知っておくべきことであろう。


原子・プラズマ・磁場という基礎概念

核融合を理解するうえで避けて通れないのがプラズマである。
プラズマは固体・液体・気体に次ぐ「第4の状態」と呼ばれ、原子が電離して自由電子が空間内を自由に運動している状態を指す。オーロラや蛍光灯の内部もプラズマの一種である。

印象に残ったのは、プラズマと磁力線の関係だ。
核融合反応を起こすには1億度を超える高温が必要であり、そのようなプラズマを物質に触れさせずに閉じ込めるため、磁場が使われる。

しかし、磁場で閉じ込めている間にも、プラズマはエネルギーを失い、粒子も外へ逃げていく。
そのため、「核融合反応によるエネルギーの発生が、損失を上回る状態が本当に実現できるのか」を判断する指標が必要になる。

ここで重要になるのがローソン条件である。
ローソン条件とは、核融合反応によって得られるエネルギーが、放射や粒子損失を上回るために満たすべき条件であり、プラズマ密度、温度、閉じ込め時間の積で表される。

単に高温にするだけでなく、密度と閉じ込め時間を同時に成立させる必要があり、これが核融合炉設計の難易度を決定づけている。


核融合炉を構成する三つの要素

核融合炉の基本構成として、以下の三つの装置は押さえておきたい。

  • 真空容器
  • 磁場コイル
  • ブランケット

磁場コイルには、ポロイダルコイル、中心ソレノイドコイル、トロイダル磁場コイルがあり、いずれも超電導コイルとして極低温(約5K)環境で動作する。巨大な磁場を安定して作るための、装置工学の塊である。

核融合炉では、液体ヘリウムを用いた極低温冷却システムにより、常温から段階的に冷却し、超電導状態を維持している。
超電導状態では電気抵抗がゼロになるため、巨大な電流を長時間流し続けても発熱がほとんどない。

一方で、冷却が失われると超電導状態が破れ、電気抵抗が発生して急激に発熱する「クエンチ」と呼ばれる現象が起こる。
巨大な電流と磁気エネルギーを扱う装置であるため、温度管理と保護設計は極めて重要である。

ブランケットは特に重要なコンポーネントである。
冷却水による熱回収だけでなく、核融合反応で発生する中性子をリチウムに照射し、燃料であるトリチウムを生み出す役割を担っている。

後述する京都フュージョニアリングは、このブランケットシステムやトリチウム燃料循環といった部分の設計・エンジニアリングに強みを持つ企業である。


核融合炉の方式と主要施設

核融合炉には大きく分けて二つの方式がある。

  • 磁場閉じ込め方式
    – トカマク型
    – ヘリカル型
  • 慣性閉じ込め方式
    – レーザー方式

日本の代表的な装置であるJT-60シリーズ、そして国際的に知られるITERはいずれもトカマク方式を採用している。


ITERとその課題

ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)は、1985年のレーガン・ゴルバチョフ会談を起点とする国際プロジェクトで、「地上に太陽をつくる」という象徴的な理念のもとに始まった。

トカマク方式を採用し、入力50MWに対して出力500MWを目指す設計で、プラズマ直径は約16m、体積は約800m³という桁違いの規模を持つ。

一方で、当初2025年としていたファーストプラズマ目標は2034年以降に延期され、最終運転フェーズも2039年以降とされている。
装置規模の巨大さ、厳格な原子炉規制、7つの国・地域による国際共同体制が、柔軟な実験条件の変更や短い試行錯誤サイクルを難しくしている点は、明確な課題に感じた。


日本の核融合研究拠点

日本では、2016年に設立された量子科学技術研究開発機構(QST)が核融合研究の中核を担っている。
茨城県那珂市にあるJT-60SAは、ITERを支援しつつ、その先にある実証炉(デモ炉)への橋渡しを目的とした装置である。

また、2023年には当時内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)であった高市早苗氏が、JT-60SAの運転開始記念式典に合わせてQST那珂サイトを訪問している。
政策面でも核融合が重要技術として位置づけられていることを象徴する出来事に感じられる。

岐阜県土岐市には核融合科学研究所があり、大型ヘリカル装置(LHD)によるヘリカル型研究が進められている。


核融合に挑む国内外の企業

近年は民間企業の動きが加速している。

  • Commonwealth Fusion Systems(米国)
    トカマク型。ビル・ゲイツなどの投資を背景に、圧倒的な資金調達力を持つ。
  • Helion Energy
    磁気慣性核融合。マイクロソフトやサム・アルトマンが支援。
  • 京都フュージョニアリング
    炉本体ではなく、ブランケット、トリチウム燃料循環、熱交換系といった周辺技術に特化。
  • ヘリカルフュージョニアリング
    トカマク方式の課題である定常運転の難しさや不安定性、ネット出力の低さを踏まえ、ヘリカル型で商用炉を目指し、2034年に世界初の定常運転商用炉完成を掲げている。

日本はどこを狙うべきか

米国は炉本体の開発競争、EUは国際協調型、中国は国家主導型と、それぞれ戦略が異なる。
日本が同じ土俵で炉本体競争に参加するのは現実的ではないように思う。

日本の強みは、装置工学、材料、制御、安全設計、運転ノウハウといったインテグレーション領域にある。
1970年代以降の原子力開発で蓄積してきた知見を、核融合に横展開する戦略は極めて理にかなっている。

読書外メモとして補足すると、堀江貴文氏とのSNS動画対談の中で、ヘリカルフュージョニアリングの田口CEOも「統合(インテグレーション)できる企業が市場で存在感を持つ」と発言しており、この見方とは整合的だと感じた。


核融合と水素社会の接続

核融合発電が実現すると、電力と水素を同時に安定供給できる社会が見えてくる。

核融合炉は800~1000度を超える高温熱を供給できるため、高温電解や熱化学分解といった手法を用いることで、従来より高効率な水素製造が可能になる。
液化水素の長距離輸送技術もすでに実用段階にあり、エネルギーの地産地消と分散配置が進むことで、災害対応力やレジリエンスの向上にもつながる。

終わりに

核融合と水素の親和性に気づかされた読書体験だった。

EVが台頭する一方で、燃料電池車や水素インフラの動きも確実に進んでいる。
将来的には、ガソリン車の比重が下がり、EV、FCV、さらにはEVとFCVのハイブリッドが共存する社会へ移行していく可能性も十分にあると感じている。

核融合発電は原子力発電と混同されがちだが、その時間スケール、リスク構造、社会的意味は大きく異なる。電力と水素を同時に生み出せる基盤技術として捉えることで、エネルギーの見え方が変わった。

2030年から2050年という時間軸の中で、自分がエネルギー業界のどこに軸足を置くのかを考えるうえで、多くの示唆を与えてくれた一冊だった。

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