英国における原子力発電所の許認可の現状と規制アプローチ

プラントネタ

はじめに

英国で原子力発電所を建設・運転するためには、複数の法制度に基づく許認可を並行して取得する必要がある。
これらは、Nuclear Site Licenceのような単一の「原子力許可」に集約されているわけではなく、大きく分けて以下の三つの枠組みから構成されている。

・原子力安全を所管するライセンス制度
・環境影響を管理する環境許可制度
・土地利用および国家的インフラとしての整備を規律する計画(プランニング)制度

特に新設の原子力発電所は、国家的に重要なインフラとして扱われ、通常の地方自治体による計画許可ではなく、特別な計画同意制度が適用される。

本記事では、これらの制度を公式に公開されている英国政府および規制当局の情報をもとに、原子力発電所に必要なライセンシングと許認可の全体像が分かるよう整理する。

第一章 Nuclear Site Licenceとは何がライセンスされるのか

英国で原子力発電所を建設・運転するためには、Office for Nuclear Regulation(ONR)が発行する Nuclear Site Licence が必要となる。この制度は Nuclear Installations Act 1965  に基づくものであり、英国における原子力安全規制の中核を成している。
Nuclear Site Licence は、原子炉そのものや個別の施設に対して付与される免許ではなく、また事業者に対して包括的に原子力事業を認める免許でもない。この点は、ONR が公開している Register of nuclear site licences を参照すると明確である。

ONR の登録簿には、Licensed Site Title(認可された原子力サイト名)と Licensee’s registered office address(ライセンシー法人の登記住所)が必ずセットで記載されている。これは、Nuclear Site Licence が、特定の地理的範囲として定義された原子力サイトと、そのサイトで原子力関連活動を行う特定の法人(ライセンシー)を同時に規定するライセンスであることを示している。ONR 自身も、公式説明において、原子力サイトライセンスとは、特定の目的のためにサイトを使用することを、法人に対して認めるライセンスであると定義している。

炉型・施設・事業者の関係

この制度設計の結果として、Nuclear Site Licence は次のような性格を持つ。まず、原子炉の設計、すなわち炉型そのものは、GDA(Generic Design Assessment)などを通じて評価されることはあるが、それ自体がライセンスを保持する主体になることはない。同一の炉型であっても、どのサイトに、どの事業者が、どのような体制で設置・運転するかによって、ONR の最終判断は変わり得る。

次に、施設(建屋や設備)はライセンスの対象範囲には含まれるものの、主体としてライセンスを所有することはない。施設はあくまで、このサイトで許可される原子力設置物として、ライセンス条件の中で定義される。一方、ライセンスは法人(corporate body)に対して発行されるが、これはその法人がどこでも自由に原子力事業を行えることを意味するものではない。Nuclear Site Licence が許可するのは、この法人が、このサイトにおいて、許可された原子力設置物を、認められた条件の下で取り扱うことに限られる。

この仕組みは、ONR の登録簿において、同一の事業者が複数のサイトライセンスを保有している例や、同一のサイト名であっても異なるライセンス番号が付与されている例が確認できることからも裏付けられる。

なぜ炉型と組織能力の両方が問われるのか

Nuclear Site Licence の審査では、技術と人・組織が切り離されることはない。ONR は、安全は設計だけで完結するものではなく、その設計を正しく理解し、管理し、運用できる組織能力との組み合わせによって成立するという考え方を採用している。そのため、審査対象には、原子炉および関連設備の技術的安全性に加え、事業者のマネジメント体制、教育訓練、意思決定プロセス、いわゆるセーフティカルチャーが含まれる。

この考え方に基づき発行される Nuclear Site Licence には、36 の標準的な Licence Conditions が付随し、設計、建設、運転、廃止措置の全期間を通じて、ライセンシーに対して継続的に適用される。


参考・公式情報リンク(Official sources)
・Nuclear site licensing
原子力サイトライセンス制度全体に関する ONR の公式説明
https://www.onr.org.uk/our-work/how-we-regulate/nuclear-site-licensing
・Register of nuclear site licences
Licensed Site Title と Licensee が紐づいて公開されている原子力サイトライセンス登録簿
https://www.onr.org.uk/register-of-nuclear-site-licences


第二章 Generic Design Assessment(GDA)の位置づけ

Generic Design Assessment(GDA)は、新しい原子炉設計について、事業化やサイト選定に先立ち、英国の原子力規制当局が包括的な安全・環境評価を行う仕組みである。個別サイトに依存しない Generic な設計を対象とし、将来の建設計画の有無にかかわらず、設計そのものが英国の規制要求に適合し得るかを事前に確認することを目的としている。

GDA は法令上の必須要件ではない。しかし実務上は、同一の設計を複数サイトに展開する場合や、将来の規制審査、すなわちサイト固有の許認可プロセスを効率化したい場合には、事実上きわめて重要なプロセスとなっている。

GDAにおける規制当局の役割

GDA は、複数の規制当局が連携して実施する制度である。ONR(Office for Nuclear Regulation)は、原子力安全、セキュリティ、セーフガードの観点から設計を審査し、設計が英国の要求水準に適合すると判断した場合には Design Acceptance Confirmation(DAC)を発行する。一方、Environment Agency および Natural Resources Wales は、環境影響、放射性廃棄物管理、排出、Best Available Techniques(BAT)の観点から評価を行い、Statement of Design Acceptability(SoDA)を発行する。

これらの文書は、建設許可や運転許可そのものではないが、将来の ONR による Nuclear Site Licence、ならびに Environment Agency による Environmental Permit の審査において、設計に関する論点を大幅に前倒しで整理する効果を持つ。その結果、後続するサイト固有の審査では、立地条件、組織体制、運転管理といった site specific な論点に議論を集中させることが可能となる。

DCOとの関係と制度上の位置づけ

GDA の過程で作成される Safety Case や Environment Case に関する情報は、Planning Inspectorate が所管する Development Consent Order(DCO)においても高レベル情報や説明用資料として参照される。GDA は DCO の法的要件ではないものの、当該設計が既に専門規制当局によって技術的に受容可能と判断されているという事実は、プロジェクト全体のリスクを評価する上で、間接的に有利に働く要素となる。

このように、GDA は単なる設計評価にとどまらず、将来の Nuclear Site Licensing、Environmental Permitting、さらには DCO を含む一連の許認可プロセスに共通する技術的基盤を形成する制度として位置づけることができる。


参考・公式情報リンク(Official sources)
新しい原子力発電所に対する GDA 制度の公式説明
https://www.onr.org.uk/generic-design-assessment

参考:過去約15年のGDA設計一覧(Generic Site Envelope含む)

| 会社 / Requesting Party                 | 設計名            | DAC / SoDA年        | GDAの範囲                         | Generic Site Envelopeの扱い                                   |
|----------------------------------------|-------------------|---------------------|-----------------------------------|--------------------------------------------------------------|
| EDF / AREVA                            | EPR(UK EPR)     | 2012                | Integrated Power Station          | 沿岸大型サイトを想定した包括的GSE                           |
| Westinghouse Electric Company           | AP1000            | 2017                | Reactor design中心                | 英国標準地震・洪水・人口想定を使用                            |
| Hitachi-GE Nuclear Energy               | UK ABWR           | 2017                | Integrated Power Station          | Wylfa等を想定した包括的GSE                                   |
| General Nuclear System Ltd (CGN/EDF JV) | UK HPR1000        | 2022                | Integrated Power Station          | Bradwell類似沿岸サイトを想定したGSE                           |
| Rolls-Royce SMR Ltd                     | RR SMR (470 MWe)  | 進行中(Step 3)    | Integrated Power Station(SMR)   | Generic性を強調、複数内陸・沿岸条件を包絡                     |
| GE Vernova Hitachi Nuclear Energy       | BWRX 300          | Step 2(2025)      | Reactor+主要システム             | 保守的GSE設定(SMR向け簡素化前提)                            |
| Holtec International                    | SMR 300           | Step 2(2026)      | Reactor+主要システム             | GSEは設定されているが将来拡張を前提                           |

参考・公式情報リンク(Official sources)
・ONR – Assessment of Reactors / GDA overview
https://www.onr.org.uk/generic-design-assessment/assessment-of-reactors/
・UK Government / Environment Agency
New nuclear power stations – assessing reactor designs
https://www.gov.uk/guidance/new-nuclear-power-stations-assessing-reactor-designs


第三章 環境許可(Environmental Permits)

原子力発電所は、原子力安全(Nuclear Safety)とは別に、環境影響に関する独立した法制度の適用を受ける。イングランドにおいて、これらの環境規制は主に Environment Agency(EA)が所管しており、ONR による Nuclear Site Licence とは異なる法的根拠と判断基準に基づいて審査および許可が行われる。

3.1 環境許可制度の法的枠組み

原子力施設に関する環境許可は、主として Environmental Permitting (England and Wales) Regulations に基づいて発行される。この制度は、環境および公衆の被ばく防護、放射性および非放射性物質の排出管理、廃棄物の適正管理を目的としたものであり、原子炉の安全設計や運転組織を評価する ONR のライセンス制度とは、制度上の役割が分離されている。

3.2 原子力発電所に必要となる主な環境許可(放射性・非放射性の区分)

原子力発電所に対する環境規制は、放射性物質を対象とする規制(RSR)と、非放射性の一般環境規制に大きく分けて適用される。これらはいずれも Environmental Permitting (England and Wales) Regulations に基づくが、対象とするリスクと規制のロジックは明確に異なっている。

放射性物質に関する Environment Agency の規制は、RSR(Radioactive Substances Regulation)Permit として整理される。RSR Permit は原子力施設特有の環境許可であり、放射性液体排出および放射性気体排出、放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分、BAT による放出最小化、被ばく評価および長期環境影響などを対象とする。これらは、原子力安全の観点から設計を評価する ONR の審査とは独立して、環境防護および放射線防護の観点から評価される。

一方、原子力発電所であっても、非放射性の側面については、通常の産業施設と同様の環境規制が適用される。具体的には、非放射性排水および冷却水排出、一般廃棄物や化学物質の管理、非常用ディーゼル発電機等の燃焼設備、NOx などの大気排出規制が含まれる。これらは放射線防護ではなく、水質、大気、廃棄物管理という一般環境保護の枠組みで規制される。

RSR Permit と非 RSR Permit は、同一の環境許可法体系に基づきつつも、評価軸が明確に分けられている点が重要である。RSR では放射線被ばく、長期的な環境影響、原子力特有のリスクが対象となるのに対し、非 RSR 規制では一般産業活動に伴う環境負荷が対象となる。

┌───────────────────────┐
│             Environmental Permits (EA)       │
│             Environmental Permitting Regs    │
└─────────────┬─────────┘
                            │
        ┌─────────┼──────┐
        │                                │
┌───▼─────┐        ┌──── ▼───┐
│ 放射性物質規制  │          │ 非放射性規制    │
│ RSR Permits     │          │ (Non RSR)       │
│                 │          │                 │
│ ・放射性排出    │          │ ・排水管理      │
│ ・放射性廃棄物  │          │ ・廃棄物管理    │
│ ・BAT適用       │          │ ・大気排出      │
│ ・被ばく評価    │          │ ・燃焼設備      │
└─────────┘        └────────┘

3.3 GDA Environmental Permit の関係

Generic Design Assessment(GDA)では、Environment Agency が設計段階から関与し、放射性廃棄物管理の方針、排出低減設計(BAT)、廃止措置および最終状態の考え方といった要素を、サイト非依存、すなわち generic な形で評価する。その結果、GDA を経た設計について Environmental Permit を申請する場合には、設計そのものの妥当性に関する議論が前倒しで整理され、サイト固有の環境条件や排出管理に審査の焦点を絞ることが可能となる。ただし、Environmental Permit はあくまでサイト固有の許可であり、GDA の SoDA が存在していても自動的に付与されるものではない。

3.4 Nuclear Site Licence との制度的な違い

Nuclear Site Licence と Environmental Permit は、相互に情報を参照しながらも、独立した許可として並行して存在する制度である。Nuclear Site Licence は原子力安全、組織能力、運転管理、安全文化を対象とし、法的責任主体は licensee となる。一方で Environmental Permit は、環境影響、排出、廃棄物管理を対象とし、環境法令に基づいて規制判断が行われる。この役割分担が、英国の原子力規制制度の重要な特徴である。


第四章 計画制度と Development Consent Order(DCO)

新設の原子力発電所は、その規模および公益性の高さから、英国の計画制度において Nationally Significant Infrastructure Project(NSIP)に該当する。このため、通常の建設開発で用いられる地方自治体による Planning Permission(計画許可)の対象とはならず、Development Consent Order(DCO)を取得する必要がある。

4.1 NSIP としての位置づけ

NSIP とは、エネルギー、交通、水インフラなど、国家的な重要性を持つ大規模インフラを対象とする制度上の区分である。原子力発電所は、発電規模が大きく、立地および周辺影響が広範に及ぶことに加え、国家エネルギー政策と深く関係するという特性から、制度上、自動的に NSIP として扱われる。

4.2 DCO 制度の法的枠組み

DCO 制度は Planning Act 2008 に基づいて創設された。この制度では、審査(examination)を Planning Inspectorate(PINS)が担い、最終決定を担当大臣(Secretary of State)が行うというように、地方自治体ではなく国家レベルで一元的に判断が行われる。Planning Inspectorate は、申請書類の受理、審査、関係機関との調整、意見聴取を行い、その結果を勧告として Secretary of State に提出する。

4.3 DCO の性格と法的位置づけ

DCO は、単なる建設許可ではなく、複数の法的同意や権限を一体化した包括的な認可制度である。DCO に含まれる主な要素としては、計画許可、関連する法的同意や許認可の統合、必要に応じた土地収用権限(Compulsory acquisition)、建設、運転、将来変更に関する条件(Requirements)などが挙げられる。これらは一つの個別法令(Statutory Instrument)として整理され、最終的に Secretary of State により制定される。

4.4 他の規制制度との関係

DCO は、原子力発電所を実現するために不可欠な制度であるが、Nuclear Site Licence(ONR)や Environmental Permit(EA)といった原子力安全・環境規制を直接代替するものではない。DCO が判断するのは、当該プロジェクトが立地として許容できるか、また国家計画上、この場所で実施すべきかという計画上の妥当性である。原子炉の技術的安全性や環境排出の詳細については、それぞれ ONR および Environment Agency の制度によって担保される。このような役割分担が、英国の原子力規制制度の重要な特徴となっている。

参考・公式情報リンク(Official sources)
Planning Inspectorate
https://www.gov.uk/government/organisations/planning-inspectorate


第五章 主要許認可の関係と進め方

原子力発電所プロジェクトにおいては、単一の許可を取得すれば事業が成立するわけではなく、性格の異なる複数の主要許認可を長期間にわたり取得していく必要がある。とりわけ中核となるのは、Nuclear Site Licence、主要な Environmental Permits、Development Consent Order(DCO)の三つである。これらはいずれも、プロジェクト初期から検討および準備を開始し、同時並行で進める必要がある主要許認可として位置づけられる。

5.1 三つの主要許認可の役割分担

三つの制度は、それぞれ明確に異なる問いに答える制度である。Nuclear Site Licence は、原子力施設を安全に建設、運転、廃止できる組織であるかどうかを問う制度である。Environmental Permits は、環境および公衆への影響を受容可能な形で管理できるかを問う制度である。Development Consent Order は、国家計画上、この場所で当該プロジェクトを実施すべきかどうかを判断する制度である。このように、安全、環境、計画という異なる次元を対象としており、互いを代替する関係にはない。

5.2 同時並行で進められる理由

これら三つの許認可は、制度上は独立しているものの、対象とする設計情報、安全思想やリスク評価、敷地条件や周辺環境の前提といった点で、共通する情報基盤を多く持つ。例えば、原子炉の基本設計、放射性物質管理の考え方、外部ハザードの前提条件などは、GDA、Nuclear Site Licence、Environmental Permit、DCO のいずれにおいても、形を変えながら用いられる。そのため、実務上は順番に一つずつ進めるのではなく、共通の設計パッケージを用いながら並行して進めるという進め方が合理的となる。

5.3 GDAが果たす横断的な役割

この同時並行プロセスにおいて、Generic Design Assessment(GDA)は特別な位置を占める。GDA は、特定のサイトを前提とせず、設計レベルでの安全および環境の成立性を事前に整理するという性格を持つ。そのため、Nuclear Site Licence、Environmental Permit、DCO のいずれに対しても、共通の技術的前提を提供する役割を果たす。その結果、設計の是非は既に整理された状態となり、後続の審査では site specific な論点に議論を集中させることが可能となる。

5.4 後段で取得される個別許可との関係

一方で、すべての許可がプロジェクト初期に必要となるわけではない。建設段階における一時的な排水許可、建設活動に伴う騒音や粉じんに関する規制、工事用設備に関する個別の環境許可などは、DCO 取得後、かつ詳細設計の進展に応じて、より後段で取得されることが一般的である。これらの許可は、主要設計が確定していること、ならびに上位許認可である DCO や Nuclear Site Licence が存在することを前提として処理される。

5.5 全体像の概念整理

以上の関係を全体像として整理すると、次のようになる。

            設計初期
              │
┌────────────┼───────────┐
│                  │                 │
│  Generic Design Assessment            │
│                  │                 │
│ Nuclear Site    Environmental         DCO
│ Licence       Permits         (計画)
│ (安全)          (環境)             │ 
│                  │                 │
└──────────同時並行──────────┘
                  │
            建設・運転段階
                  │
         個別・後段の環境許可等

5.6 最終まとめ

英国の原子力発電所プロジェクトにおいては、単一の許可を取得すればよいわけではなく、複数の主要許認可を、それぞれ異なる目的と判断基準の下で取得していく必要がある。一方で、設計情報や安全評価は強く共有されており、GDA を起点とした横断的な整理によって、プロジェクト全体の効率と予見性が高められている。この構造を理解することで、英国の原子力許認可が複雑でありながら機能している理由が明確になる。

本記事は公開情報に基づく制度解説であり、特定案件の判断を目的とするものではありません。

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